【特許】「粘着テープ」事件(令和3年(行ケ)10091<本多>) 技術的意義が低い4個の“数値限定に係る相違点”を何れも容易想到とした事例

Опубликовано: 07 Январь 2025
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【特許】「粘着テープ」事件(令和3年(行ケ)10091<本多>)
技術的意義が低い4個の“数値限定に係る相違点”を何れも容易想到とした事例
(弁護士・弁理士・米国California州弁護士 高石秀樹)

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4つのパラメータの技術的意義が明細書に記載(実験データ)不十分。⇒進歩性×
 <相違点β>粘着テープの流れ方向5cm及び幅方向5cmの範囲に,本件発明1においては「粘着部(B)が10個~50000個存在」するのに対して,甲1発明においては個数が不明な点。
 <相違点γ>粘着部(B)の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度が,本件発明1においては「-25℃~5℃」であるのに対して,甲1発明においては不明な点。
 <相違点δ>任意の粘着部と近接する粘着部との距離が,本件発明1においては「0.05mm~0.15mm」であるのに対して,甲1発明においては「感圧接着剤非配置部」の幅が「1.0mm」である点。
 <相違点ε>粘着部(B)の厚さが,本件発明1においては「1~6μm」であるのに対して,甲1発明においては,「20μm」である点。
各相違点に関する本件明細書中の記載
 <相違点β>【0032】「前記粘着部(B)は,本発明の粘着テープの面積(流れ方向5cm及び幅方向5cmの正方形)の範囲に,10個~1000000個存在することが好ましく,1000個~50000個存在することがより好ましく,5000個~40000個存在することが,粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性),かつ,良好な接着力を保持できるため特に好ましい。」
 <相違点γ>【0036】「前記粘着部(B)の,周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルに基づく損失正接のピーク温度は,特に限定されるものではないが,-30℃~20℃であることが好ましく,-20℃~10℃であることがより好ましく,-10℃~5℃であることが,被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性),かつ,良好な接着力を保持でき,その結果,前記粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や,熱伝導性(放熱性)や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。」
 <相違点δ>【0030】「前記2以上の粘着部(B)から選択される任意の粘着部(b1)と,前記粘着部(b1)に近接する粘着部(b2)との距離は,0.5mm以下が好ましく,さらに好ましくは0.05mm~0.2mmであり,より好ましくは0.06mm~0.15mmであり,0.08mm~0.13mmであることが,粘着テープの一部に穴等を設けない場合であっても被着体との界面から気泡が抜けやすく(エア抜け性),かつ,良好な接着力を保持できるため特に好ましい。」
 <相違点ε>【0042】「前記粘着部(B)としては,厚さ1μm~6μmのものを使用することが好ましく,厚さ2μm~5μmのものを使用することが,被着体と粘着部(B)との界面から気泡を容易に除去することができ,その結果,前記粘着テープの膨れ等に起因した外観不良や,熱伝導性や耐熱性や接着力等の性能低下をより効果的に防止できるためより好ましい。」


特許戦略レベルの重要判決(等)~【ルール内の戦術】
パラメータ発明の進歩性が肯定されるロジック(近時の裁判例の傾向)
発明の課題の解決と、当該パラメータとが相関している場合は、パラメータに技術的意義が認められる。
  ⇒課題解決とパラメータとが、一対一対応であれば、技術的意義は高い。
弱い相関関係であれば、技術的意義は低い。
相関関係が無ければ、当該発明との関係では、技術的意義はない。

発明の課題の認定が重要。⇒ピリミジン大合議判決~(サポート要件の文脈で)明細書の記載が原則
⇒審査基準も同じ。補正・分割で変わり得る。
数値のみが相違点である場合、以下の①②を満たすと、多数の裁判例で進歩性〇。課題の設定如何!!
①発明の課題の解決とパラメータとが相関している。
②発明の課題が非公知であり、容易想到でもない。 OR
  発明の課題が公知又は容易想到でも、同発明の課題解決に寄与するファクターとして当該パラメータに着目することが非公知であり、容易想到でもない。(パラメータをどちらの方向にどの程度動かすか容易想到でないとした裁判例もあるが<令和2年(行ケ)10044大鷹裁判長、平成31年(行ケ)10011高部裁判長、平成27年(行ケ)10206【エアバッグ用基布】事件・高部裁判長、等>、例外的である。
 (この類型は、審査基準でいう「異質な効果」に相当する。)


5.特許戦略レベルの重要判決(等)~【ルール内の戦術】
パラメータ発明の進歩性を否定するロジック
<続き>逆に言えば…、
①発明の課題が本件明細書から読み取れず、認定できない、OR
②パラメータと発明の課題(作用効果)とが相関しない(明細書に記載がない)
場合か、相関してもパラメータが公知又は着目可能であった場合は、
(審査基準にいう「異質な効果」が認められないから、)数値範囲・パラメータ自体は容易想到・設計事項であるとして、進歩性を否定した判決が多数である。 
 ⇒予測できない顕著な効果、臨界的意義があれば別論であるが、裁判所で認められた例は非常に少ない。予測できない顕著な効果を理由とする有効審決は、最判平成30年(行ヒ)69の事案以外は、少なくとも平成20年以降、知財高裁(審決取消訴訟)で全件覆されている。
複数のパラメータが発明の課題解決と相関しているとき、主引例のパラメータの一つを動かす容易想到性を問題とするときは、当該一つだけを動かすことができる合理性の論証が必要。
 ●一つのパラメータだけを動かすことができなかった裁判例(進歩性〇)~令和4年(行ケ)10029、等
 ●一つのパラメータだけを動かすことができた裁判例(進歩性×)~平成27年(ワ)1025、等


特許戦略レベルの重要判決(等)~【ルール内の戦術】
※パラメータの技術的意義を否定して、進歩性を否定した裁判例
①令和4年(行ケ)10111「車両ドアのベルトラインモール」事件<本多裁判長>
※技術的意義が本件明細書に記載されておらず、作用効果に影響なし⇒設計事項に過ぎず、進歩性×。
(判旨抜粋)「本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側方向に『ほぼ水平に』延びることの技術的意義についての記載はない。…段差部が『ほぼ水平に』に延びても『やや下方』に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。…甲1発明1において『やや下方に』延びる段差部を『ほぼ水平に』延びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない…。」

※数値限定発明・パラメータ発明でも同じ!!
②令和3年(行ケ)10096「光源」事件<本多裁判長>~「実施例として記載されている同含有割合の最大値は、6重量%…にすぎず、本願明細書には、同含有割合が10重量%を超える場合の実験結果についての記載は全くみられない…。…適宜設計することのできたものである。」

③令和3年(行ケ)10135「…ベクター」事件<菅野裁判長>~「…配列の長さが『7.0ないし10.0Kbの長さ』…であることには技術的意義がなく、…技術的意義において同一…実質的な相違点とはいえない。」

④平成22年(行ケ)10296「ペトロラタムを基にした鼻用軟膏」事件<滝澤裁判長>~「本願明細書に,粘度に着目することの技術的意義も,粘度を8mm2/秒という数値以上のものに特定することの技術的意義も記載されていないことに照らすと,引用例に飽和炭化水素の混合物の粘度を調整することによりアレルギー性反応を予防しようという直接の示唆がないとしても,…本願発明が進歩性を有するということはできない…。」

=平成18年(行ケ)10132、平成17年(行ケ)10665、平成17年(行ケ)10754、平成17年(行ケ)10189






弁護士/2002年・弁理士/2005年登録
東京工業大学工学部電気電子工学科(1997年)
同大学院理工学研究科精密機械工学専攻 工学修士(1999年)
デューク大学ロースクール 法学修士(LL.M.)(2010年)
米国カリフォルニア州弁護士(2011年)
米国パテント・エージェント試験合格(2011年)
2010-2011 Morrison Foerster LLP
2002-現在 中村合同特許法律事務所

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